ジェームス・ギャドソンは、1939年生れ(2020年現在80歳)のドラマー。
アメリカ西海岸を代表するドラマーとして、3000枚を越えるレコーディングに参加してきた生きた伝説とも言えるドラマーです。
共演したアーティストを上げれば、
- マーヴィン・ゲイ
- ダイアナ・ロス
- マイケル・ジャクソン
- ビル・ウィザース
- ジェームス・ブラウン
- スティーリー・ダン
など、現代音楽史に貢献してきたスター達がずらりと並びます。
そして、何を隠そうジェームス・ギャドソンの凄いところは、現在我々が聴いているドラムのリズムの基本を「創ってきた」人だということです。
これだけでもドラマーであれば「一体どんな人なんだろう?」と思うはず。
そこで今回は、ジェームス・ギャドソンについて紹介し、グルーヴの王様のドラムに興味を持っていただければと思います。
目次
ジェームス・ギャドソンは「基本を創った」偉大なドラマー
1950年代から活躍し、ドラムキャリアは60年以上!
ジェームス・ギャドソンが活躍したモータウン・レコードの設立が1950年代です。
もともと歌手として活躍していたギャドソンも、1950年代後半頃からドラムを始めてモータウンで活躍し始めたと言われています。
そして、2020年現在80歳ですから、60年以上ドラムを叩き、音楽の第一線で活躍し続けているのです!
ちなみに、モータウンと言えばビートルズが浮かぶ方も少なくないはず。
1960年代から活動しはじめたビートルズは、モータウンの影響を大きく受けていることでも有名ですよね。
8ビートの創世記を知る”生きる伝説”
ドラムの基本でもある8ビート。この8ビートがいつ生れたかご存知でしょうか?
実は1950年頃なんです。
つまり、ジェームス・ギャドソンのドラマーとしてのキャリアは、8ビートの創世記に始まり、ジェームス・ギャドソンはそのリズムの進化・普及とともに生きてきたわけです。
もっと言えばジェームス・ギャドソンは、我々ドラマーが知っているリズムパターンの「ルーツ」そのものを体現しているということです。
現在、ドラムは色々と進化して先鋭化しているものもありますが、ルーツを知っているからこそ「本物のグルーヴ」「キング・オブ・グルーヴ」として世界中のドラマーから崇拝されているのです。
グルーヴ・マスター沼澤尚さんの師匠だった
日本人ドラマーの中で「グルーヴ」を語るなら必ず名前が上がる「沼澤尚」さん。
ジェームス・ギャドソンは、沼澤さんの師匠としても有名です。
こちらの動画は、2012年にブルーズ・ザ・ブッチャー(沼澤さんのバンド)と、ジェームス・ギャドソンがツインドラムで演奏した時の映像。
ちなみに、沼澤さんは慶應義塾大学を卒業後すぐに、ロサンゼルスの音楽学校P.I.Tに留学。
その後、TOTOのジェフ・ポーカロの父ジョー・ポーカロやラルフ・ハンフリーに師事を受けています。
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P.I.Tでは卒業後に講師に就任し、アメリカを拠点に活躍されるなど非常に輝かしい経歴をお持ちの方でもあります。
「16ビートの父」の由縁と、ドラムの特徴
ギャドソンと言えば「片手16ビート」
音楽のルーツを辿るとアフリカンビートから始まり、
- ミシシッピ
- シカゴ
- カンサス
- テキサス
- ニューオリンズ
と旅が進み、デトロイトでモータウン・ビートが誕生しました。
そして、西海岸に到着すると、ジェームス・ギャドソンの真骨頂である片手16ビートが登場します。
また、ジェームス・ギャドソンは「16ビートの父」としても知られ「16ビートを生み出したドラマー」と考えられています。
16ビートの特徴は「片手で高速」。躍動感がハンパない。
ジェームス・ギャドソンは左利きですが、BPM100overでも片手で16ビートを刻みます。
これは、彼が大切にしていることの一つである「トルク感」を表現するため。
ちなみにギャドソンは、このトルク感を「16分ウラの音を特有のハネ気味なタイミングで刻む」ことで表現しています。
自然体でありながら圧倒的な貫禄のドラム
ギャドソンのドラムは、あまりにも自然。
そのため、一聴すると何もすごくないような感じがします。
ところが、真似しようとすると、ものすごく難しいのです。
ギャドソンと一緒に演奏したミュージシャンは「ふっと懐に入れてくれて、何も考えていないのに、自分の最高の演奏が引き出されてしまう」と語っているほど。
ジェームス・ギャドソンには、虚栄心とか、そういう音楽に必要のない邪念がないようです。
そういう素直な人格が、そのままドラムにも現れているのですね。
ジェームス・ギャドソンのドラムが聞ける「名盤」
Marvin Gaye / I want you
古内東子 / Hourglass
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ロックの8ビートも、ルーツを辿ればR&Bにつながっています。
このDVDでは、ジェームス・ギャドソンが、アメリカ各地を旅しながら、12/8アフリカン・ビートから始まるリズムが、どのように洗練され、今日知られる8ビートや16ビートになっていったか?、その歴史をまさに体現してくれています。
また、セッション・ドラマーとして大切なことをポロリとつぶやくので、それもかなり大事だったりします。
「自分の楽器は見ない。指示をしている人を見る」
冒頭でギャドソンがセッティングについて話しています。
ギャドソンいわく「風呂に入っているようにリラックスし、手を伸ばせばすべてのパーツに手が届くように配置する」とのこと。
そして「すべてのパーツの位置を頭に入れておき、見ないでもどこにあるかわかっていること。演奏中に見るべきは、自分のドラムではない。指示を出している人を見る。自分のドラムを見ていてはいけない。」と語っています。
できないなら、ギャドソンから言わせればあなたのセッティングは”まだまだ”だと言うこと。
目をつぶって叩けるぐらいまで、ドラムセットの配置を頭に入れ、常に同じセッティングができるよう心がけましょう。
「ジャンル別のチューニングはない。ドラムが一番鳴るトーンにするだけ」
こんなことを言うと、ドラム・チューナーの仕事がなくなってしまうかもしれませんが…。
ギャドソンいわく、ロックやジャズなど、それぞれのジャンルに合わせたチューニングはしないとのことです。
ドラムにはそれぞれの個性があり、そのサイズに合わせて、最もよく鳴るトーンに調整するだけ。
ジャンルの違いはタッチの問題だとのことで、ロックをやるときは大きいドラム、ジャズのときは小さめのドラムを使うと話しています。
これは重要なことで、マルチマイキングで至近距離からドラムを録音する現在のやり方とちがって、ジェームス・ギャドソンが活躍した当時は、まだドラムセット全体をオフマイク1本で一気に録音したりしていました。
したがって、ドラムは生音でしっかり鳴っていないといけなかったわけです。
ジャンルに合わせてチューニングをする前に、まずドラムが太鼓として一番鳴るようにするのが大事ということです。
これは余談ですが、ギャドソンのライブを見に行った人の談では、ギャドソンはライブ会場で「パーン」と手を叩き、その音の反響で、会場の音響(デッドかライブか)をチェックしていたそうです。
そして、会場に合わせて適切なミュートをすると・・・なんとまあ、生音がそのままCDの音と全く一緒だったというのです。
生演奏を見る機会があれば「グリップ」を要チェック!
ジェームス・ギャドソンについて紹介しましたが、彼の魅力は伝わったでしょうか?
もし、彼のドラムに興味を持ち「生演奏を見たい!」と思ったならば、ぜひ彼のグリップを確認してみてください!
ギャドソンは、レギュラー・グリップとマッチド・グリップを両方使います。音楽に要求されるタッチに従って、使い分けているのです。
しかし、同じマッチドでも、さらにグリップを使い分けているのです。
- パワフルなリズムパターン:スティックのグリップエンドが手の平の中に入ってしまうほど長く持つ
- 静かなリズムパターン:グリップエンドが数cm余るぐらい短く持つ
など。
バックビートを叩く左手だけ逆手持ちして、先端が太いグリップエンドで叩いたりもします。
これは、運動として効率的な「正しいグリップ」ではなく、必要な音を出すための臨機応変なグリップであり、両手を均等に使う綺麗なスティックワークではなく、ドラムセットを使って、リズムパターンを叩くのにパーツに特化した最適なスティックワークとして使い分けているのでしょう。
このあたりも、ギャドソンがグルーヴ・マスターである由縁のひとつなので、手元の見える位置で確認してみてくださいね。